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化学の視点で社会を見て、疑問に思ったことをまとめていきます。

『「レッドブル」の飲みすぎで男性死亡』記事の矛盾と不思議。

Techinsightに掲載された記事

元の記事はこちら

japan.techinsight.jp

特に引っかかった部分を以下に引用すると、

『now8news.com』が報じているところによれば、ホセさんは「ここ18時間で、24オンス缶(710ml)入りのレッドブルを24本飲んでしまった」と打ち明けていたもよう。レッドブルたった1本でもコーラ7本分に相当する240mgものカフェインを摂ることになると言われ、合成添加物も相当量入っている。

という部分や

こちらでは少し前、北アイルランド・アントリム州在住のレーナ・ルパリさん(26)が毎日平均28缶、3000kcal以上というレッドブルを飲み続けていた結果、「特発性頭蓋内圧亢進症」を発症し、ひどい頭痛や耳鳴りの末に視力を失いかけたというニュースをお伝えしていた。

という部分が特に引っかかる。 今回の内容では、カフェインの過剰摂取による健康被害が中心になると思われるので、少し調べてみた。

カフェインの安全性

化合物として販売されている物質には、基本的にMSDS(化合物安全性データシート)という文書が公開されている。

これは、その物質の安全性について、製造するメーカーが安全性について調査したもので、今回のカフェインについては純正化学株式会社が製造しているため、検索すると簡単に出てきた。

MSDSはこちら → http://junsei.ehost.jp/productsearch/msds/24015jis.pdf

経口摂取についての危険性については、5ページ目にある「11, 有害性情報」の中に以下のような記載がある。

List1の文献においてラットのデータが12件(261-383、200-400、192、483、233、355、247、344、421、700、50-500、261-383 mg/kg) あり、そのLD50が区分3に相当するものが7件、区分4に該当するものが5件であったことから(SIDS, Access on Sep. 2008)区分3とした。

データによって違いがあるので、危険性の区分3にするのが妥当だろうということのようですね。

さて、区分3というのは一体何のことなのでしょうか。「LD50 区分3」と検索すると、次の文書が出てきました。→ こちら

開くと、6ページに急性毒性についての区分が示されており、経口摂取の区分3とは体重1kgあたり300mgのようですね。

ということは、体重60kgの成人の場合では、急性毒性を示し、半数の人が亡くなる量というのが300mg/kg × 60kg=18000mgということになりますね。

今回のケースについて

ところで、今回のケースについての摂取量はどの程度だったのでしょう?

記事の内容によると、『18時間で、24オンス缶(710ml)入りのレッドブルを24本飲んでしまった』とのことですね。

18時間というタイムラグが気になりますが、急性毒性による被害とみて、その分量を計算してみると、レッドブルが710mL×24缶 = 17040mL ということになります。

レッドブルの公式情報によると、レッドブル250mLに、80mgのカフェインが含まれているそうですので、今回の摂取量は17040mL ÷ 250mL × 80mg = 5452.8mg という計算になります。

今回亡くなったホセさんの体重がわかりませんので、LD50の値は正確にはわかりませんが、体重60kgとすると18000mg摂取で半分の確率で亡くなるのに対し、5500mg程度摂取していますので、かなり多いという印象ですね。

記事の記述の不思議。

なぜか、Techinsightの記事では『合成添加物も相当量入っている』などとついでにディスられています。

今回計算してわかったように、そもそもカフェインの過剰摂取が危険なレベルに達していたことはわかります。

他のものの影響があるなら、それらもきちんと検証していかないといけないのではないでしょうか。